もう少し詳しく、國貞さんが独立された頃の話を聞かせてください。
はい。
会社員時代に、米国ピーター・ドラッカー経営大学院にてMBAも取得されていますよね。独立したときには、役に立ちましたか?
いや、あまり(笑)。会社員時代から「こうあるべきだ論」というのがいつも自分にあったので「まずは戦略立案」「自分の強みの分析」そういうことを最初に「するべきだ」と思っていたんですね。でも、じっくり考えてみたところで、自分の強みなんて、ひとつも出てこない。
エリート街道を走ってきたのにですか?
出てこなかったですね。周囲に、本当に優秀な人間がたくさんいたから、素直に自分の強みを強みと受けとめられなかったのかもしれません。それで、目の前のことを、誠実に、一生懸命やり続けるしかない、という極めて単純な結論に辿りつきました。
なるほど。
家のローンもありましたし、子どもも小さかった。だから、「戦略云々なんて、何をきれいごとを言っているんだ。日々の仕事をがむしゃらにやるしかない」という感覚になりました。
どのようなビジネスを立ち上げたのですか?
「延命医療と臓器提供に関する生前意思表示支援ビジネス」です。駆けずり回りましたが、あえなく半年で失敗しました。机上の空論とはこのことですね。何一つ、机上で考えていた通りになんていかなかった。一方で、何人かの社長さんから「私の右腕として仕事を手伝ってもらいたい」と言われたのもこのころです。それで、次に、経営コンサルタントという仕事を始めました。
そのころのことで、思い出に残っていることはありますか?
当時、3社しかお客様がいなかったんですよ。だから、資料も徹底的につくりましたし、会社を創った釘さんならわかると思うけど、朝も晩も平日も休日も関係なく、仕事のことだけを考えて生きていました。それなのに、結果を出せない。それでね、顧問先に最終的に言われた言葉が「國貞さん、もういいよ」って。「一生懸命はわかった。でも、もういいよ」って。この言葉は重かったですね……。
そのときのショックは相当でしょうね。
元々、大手の鉄鋼会社を選んだのも、「世の中をもっとこうしたい」「世界中の国に貢献したい」そういう考えからだったんですよ。若い頃は真剣に、天下国家を熱く語っていました。それなのに、実際は、目の前の誰ひとりに対しても、ひとりでは、何も貢献できない。……現実を突きつけられました。でもおかげで、謙虚になれたのだと思います。自己の無力さを知ることができたのも、独立したからこそです。ところで、釘さんは、仕事ができる人って、どういう人だと思いますか?
う〜ん、難しいですが、相手が本当に求めていることは何なのかを先に察知できる人かもしれないな、と思いますね。國さんは?
ここ数年で思ったんですが、論理と感性の両輪がまわっている人かなぁ。つまりね、人間が人間とビジネスを行なうのですから、論理だけでは説明しきれないことばかりなんですよ。たとえば、好きな女の子に「どんな季節が好き?趣味は?好きなスポーツは?」とストレートに聞く男と、会話の中から「あぁこういう人なんだろうな」と想像していく男がいたとして、いわゆるビジネス理論って前者が正解になってしまうことがあるんです。「相手のことを知る」ための回答が「モレなくダブりなく効果的に質問する」というような。でも、こんな男に次のデートはないですよね(笑)。釘さんが言ったことに近くて、相手の気持ちをどこまで察することができるか、がポイントでしょうか。
MBAをもっていながら実際の現場ではうまくいかない、その経験を通じて「論理と感性の両輪が大事だ」と思われたわけですね。ではその力を身につけるためには、どうすればいいのでしょうか?
目の前の相手や仕事を大切にすることじゃないかなと思います。多くの人が「目標やビジョンを持ちなさい」といいますが、本当に立派な人は目標があったからそうなったのではなく、目の前のことを大切にし続けたからそうなったんだと思います。豊臣秀吉だって、目の前のことを一生懸命やっていただけです。
確かに、そうですね。國貞さんはそのことを、コラムでも何回も書いていますね。昨年の、あるコラムでは「僕のキャリアはまったくのデタラメだ。何の計画性もない。ただ、心掛けてきたことは、目の前の仕事で成果が出るまで続けることと、節目節目では自分で決断し進路を選んできたことくらいだった。しかし、いままでの25年の脈絡のない経験はすべてがつながっていて何一つ無駄になることはなかったと今しみじみ感じている」と。
本当にそうですよ。就職活動をするとね「自分にとって仕事とは何か」、「そもそも自分とは何か」、「自分に合う仕事とは何か」を考えたりすると思いますが、結局は、長い時間をかけて多くの経験をしなければわからなんじゃないかと思います。ゴールが明確ではなくても、その時その場を大切にし、自分で考え決断していくことにより、その人なりに世界は広がり、結果として自分らしいキャリアがつくられていくのだと思います。
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